京大生が選ぶ感動した一問
第6回 京都大学
化学Ⅱ・後期
感動した理由
今回の問題は高校のときに授業で扱った化学の問題からです。
テーマは化学II・反応速度論で、「反応速度」と京大固有の出題範囲である「微分方程式」を結びつける感動的な問題です。
この問題に出会うまでに受けた教育の中では、反応速度という概念を式(2)までしか習いませんでした。漠然と概算された平均の反応速度 は習ったのですが、果たしてこれが現実の反応にどれほど応用できるのか、はなはだ疑問でありました。
なぜなら、実測した濃度からおおよその平均の反応速度は算出できても、その逆はできないからです。
日常生活で考えればよくわかることですが、「なぜ自動車の時速は表示されているか」という質問に、おそらく多くの人が「目的地までの所要時間をおおよそ知るためだ」と答えるのではないでしょうか。
このやりとりから、速度を算出するときは、任意の時間後にどのような状態になっているかを予測できることを大切にしているとわかります。目的地に着いてから「平均の時速は45km/hでした」と言われてもなんだか変な気分です。
今回の場合では、算出された反応速度から任意の時間 における物質の濃度を予測できることが実に大切であるのです。この意味で、この問題では時間
の関数としてAの濃度が式(5)で与えられているので「これぞまさに反応速度だ!」と感動しました。任意の時間
でのAの濃度が完全にわかるように解けたわけです。
ここで、問題文では式(4)から式(5)の過程が省略されていますが、京大受験生ならば知っているはずの微分方程式を解けば簡単に算出できるので、さらに数学と化学の融合を味わうことができます。
以下に書き足したいと思います。
式(4)より

のとき

置換積分法により

を積分定数として

を新たに定数として

ここで、 のときAの濃度は
だったので、代入すると
であるから

これは確かに を常に満たす。
ここから、両辺の常用対数をとると

最後に = 2.3025...なので、それを代入すると式(5)が出てきます。また、★式を
で微分することで、反応速度
が得られます。これは式(4)も満たしています。
この を初めて見たときは、なんというかこの反応系での動きを掌握したような、解ききったような、そんな爽快な気分になったのを覚えています。
問題を解いていくうえでも、この式が頭の中にあれば、式(5)以降の問題もぐんと解きやすくなります。Aの濃度が指数減少関数だとわかってしまえば、1/2から1/8になる時間もすぐにわかりますし、(C)の問題文もより理解しやすくなると思います。
もちろん、すべての化学反応がこのモデルで説明できるわけではありませんが、「微分方程式」と「反応速度」のコネクションを考えながら、少なくとも一個の反応系を解明したような気分を味わっていただければ幸いです。